相撲部屋の少女
作・室井亜砂二
国技館が蔵前から両国にうつってから、大相撲は横綱千代の富士が圧倒的な強さを誇っていて、他の大関陣を寄せつけませんでした。しかし元気いっぱいの保志や、大乃国、北尾、小錦などの大型力士も追い上げてきているので、毎場所目がはなせません。つい家事の手を止めて、テレビに見入ってしまいます。
勝って得意げに太鼓腹をゆすって引き上げる力士、土俵に転がり、砂まみれになって口悔しそうに引き上げる負け力士などをみておりますと、8年程前、私が高校生時代の1年間をすごした、女子相撲部での生活が懐かしく思い出されてくるのです。
1
外交官の父が、母と一緒に任地のアメリカに行ってしまった年、私は一人で日本に残って高等学校に進学いたしました。
私が入学した私立桃陰学園は、東京でもスポーツの盛んな学校として有名でした。だから自ずと学内では、運動部の選手や応援団員達が巾をきかせていて、中でも全国大会で何度も優勝している女子相撲部は、先生方も一目置かざるをえない特別待遇視された存在でした。
それを良いことに上級生の部員達は、部室外でも稽古まわし一本で、豊かな乳房をプルプルふるわせながら学薗内を我が物顔にのし歩いていました。そしてもし笑ったりする女生徒をみつけると、たちまち取り囲んで部外稽古と称してリンチにかけたり、恥ずかしがって眼を伏せる一年生の男子生徒をからかったりしていました。
新入部員の勧誘も強引で、これはと思う新人を見付けると授業中の教室まで乗り込んで来て嫌がる少女を無理矢理部室に連れこみ、強制的に入部手続きをさせたりしました。 そして相撲部員向きの体格頑健なスポーツウーマンタイプの少女達とは別に、上級生達のサディズムを満足させる為だけの、お相撲などという荒々しいスポーツとは縁もゆかりもなさそうなお嬢さんタイプの可愛らしい美少女を毎年、何名か強制入部させるのが常でした。もともと内気な私が、そんな彼女達に目を付けられてはどうすることも出来ません。下校時の校庭で突然、トレーニングウェアの大女達に囲まれて、担ぎ上げられるように相撲部の稽古部屋へ連れ込まれました。 竹刀で威され、頬を二、三発張られると、それまで親にさえ打たれた事の無かった私は、震え上って入部申込書に署名をしてしまいました。この学園では一度入部すると後一年間は、どんな理由があろうと退部する事は出来ないのです。
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署名が終ると、すぐその場で身体検査が行われます。稽古場の広い土間の真中で、制服を脱いで裸になるように言われました。
周囲をすっかり大柄な上級生に取りまかれていては、とても逆う事など出来るものではありません。身の縮む思いでセーラー服を脱ぎ、スカートをおろし、下着までとり、ついにはこれだけはと思っていたパンティ迄も脱がされて、生っ白い全裸になり直立いたしました。
正面の畳敷きの席にはゴリラのような巨体のキャプテンが腕を組み、股を広げてドッカリ座っています。その両側にふんぞり返るように座っている十名程のトレーニングウェアの女たちが三年生、つまりこの女子相撲部の神様達です。私のまわりを取り囲むのは、日に焼けた逞しい身体にマワシを締め込んだ二十名程の二年生で、言わば下士官達です。直接私達奴隷である新人生をシゴクのは主に彼女達の仕事です。
手にした竹刀の先端で、次々と私の身体の恥ずかしい個所をつついては、答えようもない淫らな質間をいたします。 お乳のふくらみや、下腹部の繊毛を突かれながら、男性経験やオナニーの回数などを聞かれ、返答出来ずに真赤になって立往生していると、たちまちまわりから罵声があびせられます。ついに直立不動の姿勢のまま、しやくりあげてしまうと、ドッと嘲笑の声が起こりました。
その日から私の地獄のような日々が始まったのです。
3
女子相撲部員は全員学園内の寄宿舎に住み込む規則になっているので、早朝四時に目覚し時計のベルが鳴った時から新入り奴隷部員の生活が始まります。
長かった髪の毛は頂でまとめて、茶筅髷のように縛って先を斬り落されています。衣服を身に着ける事は、学外へ外出する時と授業に出席する時しか許されていません。トレーニングウェアを着られるのは一年生ではレギュラーになれる強い人たちだけです。
だから私ともう一人の奴隷部員は、いつも丸裸に褌一本締めただけの姿で過します。その褌も他の部員達のような巾広の稽古まわしを締めることは許されていません。商店街などでお中元や年末にサービスでくれる丸山米穀店とか、魚正商店とかと名前が刷り込まれているあの日本手拭いを縫い合せた物を、滑稽にも文字が正面に見えるように、六尺褌式に締めるのです。
しかしこの布は柔かいので、何度か水を通すとガーゼのように目が透けてきます。そして使っているうちに、細くよじれて紐のように股間に喰い込んできますので、秘所を蓋う役目はほとんどはたしません。一本の紐状の前立褌の両側から、恥ずかしい陰毛を黒々と覗かせて学園内を用達しに走りまわらなけれぱなりません。
運動部内だけならまだしも、先輩の言い付けで教員室の顧間の先生までメッセージを伝えに行く時などは特に辛い思いをします。学生服の一般男子生徒やセーラー服の級友たちが楽しげに屯するキャンパスの中を、この恥ずかしい褌姿のまま顔を真赤にして駆けぬけるのです。
相撲部の上級生部員には決して逆えない一般の生徒達も新入部員、特に私のように慰み物になる為だけに相撲部にいる奴隷部員に対しては、情容赦なく嘲笑いたします。普段、相撲部の上級生達に圧倒されている恨みのはけ口を、将来も決してレギュラーになる事のない私達お嬢さん奴隷に向けるのでしょう。
そしてそれは生徒ばかりではなく、先生達も同じです。教員室の入口に直立して大声で用件をのべる私の身体を、皆ニヤニヤしながらいやらしく眺めて楽しむのです。
寮の長い廊下を丸出しのお尻を立てた四つん這いで拭き清め、稽古場の掃除をし、朝のチャンコの仕度をすませた頃、上級生が起きてきます。私達は付人のように側に付いてお給事をしたり、色々のお世話をします。
この年のお嬢さん奴隷部員は、私と百合子さんという色白のほっそりした美人の二人だけで、この二人は朝から皆の慰み物にされます。食事中の余興だと言っては、よく百合子さんは食堂のテープルの上で恥ずかしい「珍々踊り」をおどらされていました。芸のない私は椅子になれと言われては四つん這いになり、食事時間中上級生の大きなお尻の重みに耐えなければなりませんでした。一人尻癖の悪い先輩がいて、よく私の背中の上で大きなおならをしましたが、それは総て椅子である私のせいになり、
「この揮かつぎは椅子のくせに何て失礼なんだい。まるで私がしたみたいに思われるじやないか」
と言われてはビシビシとお尻を打たれるのです。私は臭気にむせながら痛さをこらえ、何度も何度もお詫びの言葉を繰り返しました。
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食事が終ると朝の稽古です。上俵のまわりに皆が揃うと真先に、私か百合子さんが呼び出されて、先輩の胸を借りてのぶつかり稽古となります。 褐色に輝く小山のようにグラマーな上級生達に、色白で華奢な私や百合子さんが向かっても、とてもお相撲になるわけがありません。張手で美しい顔を血に染め、さんざん土俵に叩きつけられて、ついには砂に塗れてうつ伏せにつぷれてしまいます。すると片手で後褌を掴まれ、みじめな蛙のようにお尻から宙に吊り上げられ、上俵の外になげ捨てられます。皆がそれを見て大いにあざ笑い楽しんた後は、根性を叩き直す為だと言われて、たった一本身に着けていた手拭褌をはずされ全裸になり、壁ぎわに正面を向いて立たされます。そして皆の稽古が終る迄、このスッポンポンの姿で直立不動のまま、晒し者になっているのです。私達へのこの稽古は、本番の稽古が始まる前の軽い座興なのです。
やがて部員以外のお客さま(先生方や後援会の人達、他の運動部の男子生徒や理事の先生達)がぞろぞろと見学にやってきます。女子相撲部の朝稽古はこの学校の名物になっているのです。
土俵に面して一段高い座敷に、すし詰に座って皆さんが見守る中、稽古は火の出るような激しさで続けられます。さすがにグラマーな上級生達のぷつかり合いは、息をのむような迫力があります。巨大な乳房がプンプン揺れ、汗がしぷきになって飛び、まわしの喰い込んだ大きなお尻が湯気をたてて躍動します。裂帛の気合いと怒号、肉と肉の当るバチンという音が稽古場の天井まで響きわたります。その間、両手をわきに合せ、両脚を揃えて生っ自い全裸のままじっと立ちつくす私達二人の存在は完全に無視されています。
激しい稽古が一段落すると、いよいよ上級生と見物の男性の皆さんがお楽しみの時間です。奴隷部員、私と百含子さんへのシゴキが始まるのです。 この時間になると、恥ずかしくて辛い見世物を楽しみに、部外者の職員や男子生徒が毎朝入口や格子窓に集まってきます。学校側でも寄附金集めや有力父兄へのサービスとして、この女子相撲部のシゴキショーを利用しているようです。上級生達も学校側の意を受けて、重要なお客さまがみえた朝は特別恥ずかしいシゴキを私達にくわえます。私達二人のお嬢さん奴隷部貝は、いわば全校の意志によって選ばれた生け贄として、毎朝大勢の見物人の前で辛いお仕置きを受けさせられているのです。
壁際から稽古の終った土俵中央に呼び出された二人は、順番にまず自分が至らなかった行為や失敗の数々を大声で反省させられます。お掃除の後、稽古場の窓の桟にホコリが残っていたとか、先輩の張り手をさけようとして顔を背けたとかという、ほんの些細な理由が大変な落度のように取り上げられます。 「桃陰学薗高等部、女子相撲部一年、褌かつぎの藤川江美子は今朝、お廊下を拭き掃除している時、おならをしてしまいました。これは普段から私の緊張感が足りなかった為です。今後よく反省出来ますように、どうぞ私をお仕置きしてください」 こんなふうに先輩達にお願いするのです。まず見物しているお客さまへの御挨拶に、二人並んで土俵入りをやらされます。といつても化粧まわしも褌も付けていない全裸の姿で、大きく股を割って雲竜型とか不知火型とかのあのポーズをとるのです。顔から火の出る思いでやっと所定の動作を終わるのですが、一寸でも恥ずかしそうにしたり、身を庇おうとする仕種が見えたりすると何度でもやり直しをさせられます。
先輩達にまじって、稽古を終った他の新入生達も土俵のまわりに立って笑いながら跳めています。同じ一年生でも実力のある彼女連と、所栓選手には成れない奴隷部員の私達とは身分が違うのです。 5 恥ずかしい土俵入りが終ると、次はいよいよ「お尻打ち」をされます。手を前につき、足を開いて膝を伸ばし、見物のお客様や先生方にお尻を向けて不様な四つん遣いになります。こうするとお尻が高く持ち上り、お客様の方からは私と百合子さんの恥ずかしい部分が丸見えになってしまいます。
常連見学者の空手部の男子生徒が、私達のあの部分を見比べながら卑猥な冗談を言うと、部屋中にどっと笑い声がわきおこります。あまりの情なさに私と百合子さんはその姿勢のまま、いつもポロポロ土俵に涙をこぼしたものでした。 打擲は竹刀のこともありましたが、主に専用のきめ板が使われます。尻打ち役の二年生の責め方が甘いと、その者が後で三年生から平手打ちの罰を受けなけれぱなりませんので、彼女達も真剣になってカを込めます。 四、五回も打たれると私達のお尻は、忽ちお猿のように真赤に腫れあがります。一寸腕の力が抜けると打撃の勢いに負けて顔面から砂の中に突込んでしまいます。でも涙とヨダレで砂塗れのグシャグシャな顔のまますぐに姿勢を立て直し、みしめな牝犬の様にハアハア舌をあえがせながら残りの打擲に耐え続けます。三年生から、
「もうその位で良いだろう」
と声がかかる迄、いつも最低50回は打たれたでしょうか。腰が抜けてそのまま土俵の上に突伏してしまいそうですが、それだけで許されたわけではありません。時にはお客さまのリクエストがあって、シゴキの追加が行なわれる事もあるのです。
「その娘は一寸腰が弱いようたな」
というような声が掛かると、忽ち重いタイヤを結んだロープを腰に付けられ、お尻を突出したアヒル歩きで土俵の周囲をヨチヨチ何度もまわらされたり、鉄砲柱の上の方までよじ登って悲しい声をはりあげて蝉の真似をさせられたりいたします。
全国女子相撲対抗試合の日が近づいてから、これにもう一つの恥ずかしいメニューが追加されました。大会の前に関係者だけで行われる内見相撲の余興として、私と百合子さんだけが出場する唯一の演目、初っ切りの練習です。それも真面目な初っ切り相撲ではありません。私達のシゴキを見物に来ていた大会運営委員の一人が、思い付いて急にプログラムに加えた、好色な男性のお客さまを喜ぱせる為の、それは淫らな恥ずかしい動作をおりこんだ滑稽相撲なのです。 私と百合子さんはへっびり腰で仕切り、立つとお互のお乳をわし掴みにして力いっばいもみ合ったり、チュンマゲをひっばり合ったりした後、四つに組みます。そしてお尻をうんと突出してプリプリ振ったり、赤ちやんがお襁褓を替える時のように大股を広げてひっくり返ったりします。また、つい手が滑ったふりをしてお尻の穴に指を突込んだりして満座のお客さまに大笑いされたりします。
終ってお客さまが満足気に引上げられると、私と百合子さんはやっと手拭い褌を着けることを許されます。後片付けをし、土俵を掃き清めて朝の稽古が終了します。この後一時限目の授業に出席する為急いで部室に帰って、茶筅髷を解きセーラー服を着るのですが、部室で二人っきりになるといつも私と百合子さんは抱き合って泣いたものでした。
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それから始まる授業時間だけが私の最も幸福な時、普通の女子高校生に戻れる時間です。もともと勉強は好きなので、成績もまあ良い方でした。こんな私でも時には女の子らしく、恋心に胸をドキドキさせる事もあるのです。
三学期になってから隣のクラスに転校生がありました。秋山さんという背の高い物静かな男子です。音楽の合同授業で初めて会った時、秋山さんは先生から特に指名されてピアノでクープランの美しい小品を弾きました。私がいつも見馴れている、粗野な体育会系の男子生徒達とは全く雰囲気が違っていました。端整な横顔、知的な話ぷりに私は思わずボーッとして見とれてしまいました。私のクラスでも積極的な女生徒が何人か、早速アタックしたようですが誰も彼のガールフレンドにはなれなかったようでした。
午後の授業が終ると、街のアマチュアで作っている室内楽同好会でチェンバロを弾いている彼は、すぐに帰って行きます。私は部室へ駆け戻ってセーラー服を脱ぎ、又恥ずかしい褌姿になってお稽古の仕度をしたり、なぶられながら先輩のお世話をしたりしなくてはなません。 だから秋山さんとは合同授業の時だけしか会う事が出来ませんが、それは私にとってかえって幸いでした。転校生の秋山さんには私の恥ずかしい恰好やみじめな境遇を、知られないでいる時間を少しでも長く保ちたいと考えていたのです。何とか今学期だけ知られずに過せれぱ、この学期末で一年間の拘束がきれて相撲部を退部出来るのです。
その秋山さんと親しくお話しできたのは、期末テストも間近にせまった日の図書館でした。お昼休みに試験勉強の為の参考図書を借りようと申し込みカードを提出して、カウンター前のベンチで待っていた時、遠くの席に秋山さんが座っているのが見えました。やがて司書の方が私と秋山さんの名前を呼び出しました。行ってみると二人は同じ本を借りようとしていたのです。
二人はしぱらく譲り合った後、まず私が先に借りることになりました。本を受け取ってから二人一緒に図書館を出たのですが、午後の授業が始まる迄にはまだ間があったので何となく芝生に並んで座りました。
そこは小さな池の周りに葉の落ちた雑木が数本立っているだけの裏庭で、この季節にはあまり人が来ない静かな場所でした。 私が、いつか秋山さんが弾いたクープランの曲について尋ねると、秋山さんは親切に説明してくれて、他にもラモーやバッハ等のバロック音楽の作曲家達のお話をしてくれました。そして毎週日曜日には、近所の教会でアルバイトにチェンバロを弾いているので一度間きにいらっしやいと言ってくれました。
「秋山さんは将来は音楽家になられるのかしら?」
「いいえ、僕は本当は音楽よりもその精神に興昧があるんです。表現となって表われた時の流麗さと、それを裏からささえる時代の闇。美術や音楽に見え隠れするヨーロッパ中世の暗い影に魅かれます」
「あんなに美しい曲にも影があるのかしら?私にはとても難かしいわ」
「イヤ、実は僕にもよく分っていないのです。でも人は美しい物に憧れていると思っている時、無意識のうちにその裏の暗い闇の部分に実は魅かれているのかもしれない、なんて事を思うのです。でも本当の闇の深さなんて僕にはまだわからない」
「でも闇の時代に生きていた人達はそれだけに、切実に美しい物を求めていたのでしょうね。そう思うと美しすぎる物はとても悲しいわ」
「そして闇はどんな時代にも、また誰の心の中にでもあるのかもしれない」
「とても素敵な、でも恐しいようなお話だわ。今度又、色々おしえてくださいね」
「教えるなんて事はとても出来ませんが、貴女とお話出来て楽しかった。本当は以前からお友達になりたいと思っていました。貴女のその悲しいまでの美しさはどんな闇から生まれているのでしょう」
「秋山さんからそんな事を言っていただけるなんてとても恥ずかしいわ。私はそんな女の子じやないんです」
「これからも友達としてつき合ってくれますか?」
相撲部の奴隷として、朝から晩まで追いまくられている私にはとても無理なお話なのですが、その言葉が嬉しくてついコクリと頷いてしまいました。いつかは私の恥ずかしい姿を知られ、軽蔑されるとしてもせめてそれまでの間、普通の女の子のふりをして、辛いこの一年間にたった一つ楽しい想い出を作りたい。それにこの学期が終れば相撲部を退部出来るのだからそれまでは何とか知られないで過せるかもしれない。それがその時の私の気持ちでした。 図書館から借りた本は三日後の放課後にこの庭の木の下で会って一緒に図書館に行き、他の人が借り出さないように私が返却すると同時に秋山さんが借りることにしました。しかしその三日後に早くも私の夢が無惨に破れるとは、その時は思ってもおりませんでした。
始業を知らせるべルが鳴り、二人はそれぞれの教室へ別れました。
「おい、フンドシカツギ。江美子!どこへ行く?」
運悪く相撲部の上級生たちに声をかけられました。
「ハイ。お友達に本を渡しに行くところです」
「お友達?それはもしかして男じやないだろうね」
「ハ、ハィ。いいえ。それは…・」
「何、男だな。はっきり言え」
竹刀を手にしていた沢野という先輩が近奇ってきました。彼女はいつも陰湿なイジメを考え出すので、新入生達から特に恐れられているのです。
「ハイ。男のお友達です。でもただのお友達です」
「これは驚いた。褌かつぎが部活をスッポカして男とデートしようとしているよ。皆どうしようかね」
「それは間きずてならないね」
他の先輩逮もニヤニヤ笑いながら私をとり囲んできます。
「いいえ、デートではありません。ただ本を図書館に返してくるだけです」
「図書館だって?今、男と会うと言ったぱかりだろう?」
「あの、一緒に返しに行く約束なのです。その方が次に借りる事になっているのです。すぐにすみますから、一寸だけ行かせてください」
「ヨオ、沢野よ。お嬢ちやんがお約束だそうだから行かせてあげなよ」
他の先輩が声をかけてくれたので私は助かったと思いました。
「それもそうだね。お嬢ちやんは私達プスと違って可愛子ちやんだから、ボーイフレンドだって欲しくなるよね。でも授業が終ったのにまだセーラー服を着ているのは、相撲部の規則に違反しているんじやないのかい?」
意地悪な沢野先輩が素直に許してくれるはずがなかったのです。
「お願いです。すぐに帰って来ますから、それまで待ってください」
私は必死で哀願したのですが、とてもきいてはもらえません。沢野先輩の言葉でイジメの方行が決まると、他の先輩たちも乗って来ます。
「だめだね。規則は規則だからね。さあ、今すぐここで裸になるんだよ。制服は私達が持っていてあげるから。褌はちやんと締めているんだろうね」
スカートの下にはいつもの手拭い褌をしています。私はとうとうその場でセーラー服を脱ぎ、褌一本の姿にされてしまいました。遠くにいた男子生徒達も、面白い事が始まるぞ、とぱかりはぞろぞろ集まって来ます。
「さあ、私達も一緒について行ってあげよう。その色男はどこで待っているんだい。先輩に制服を持たせているんだ。あまり待たせちやいけないよ」 ああ、何という事でしょう。私はついに、細い前立褌の両脇から恥毛を覗かせたあの、いやらしい褌姿で秋山さんの前に立つ羽目になってしまいました。 後から来る沢野先輩に、竹刀でビツャビシャとお尻を打たれて追いたてられながら、私達は裏庭までやってきました。野次馬の男子生徒達もくすくす笑いながらついて来ます。
「うちの褌かつぎはこんな所で乳くり合っていたのかい?蝉をやるのに丁度良い樹があるねえ。ほら江美子、あの木に登って蝉をやってみるかい?」
先輩の指差す木の下には秋山さんが、近づいてくる異様な集団を見て立ちすくんでいました。私は手にした本を差し出しながらヨロヨロと近づいて行きます。
「秋山さん。ご本お渡しします。後で図書館に返しておいてください」
それだけ言うのがやっとでした。唖然として立っている秋山さんを後にし、顔を手でおおい、私はその場から逃げ出しました。涙が指の間から次々あふれ出します。 後から、先輩たちが囃し立てる声がワーッと聞こえていました。
その日も私と百合子さんは褌をはずされて、土俵のそばで全裸晒しの刑を受けておりました。今日は特に、今学期最後の稽古だというので、いつもに倍する見学者が集まっています。先輩達の荒々しいぷつかり合いが終ると、いよいよ私達への最後のシゴキが始まります。いつも色々と恥ずかしい責め方を考え出す沢野先輩が、今日は見えないので一寸安心しました。
私と百合子さんは、いつものように土俵に犬這いし、お尻を高くかかげて〃お尻打ち〃を受けながら、声をそろえて「蛍の光」を歌わされておりました。最後の小節を歌いながら、ふと顔を上げると入ロに立っている見物人の中に秋山さんの姿をみつけたのです。
秋山さんは周囲を沢野先輩達にかこまれて青い顔をして立っています。鬼のような沢野先輩は、あの時だけでは足りずに、最後のシゴキを秋山さんに見せ、私の恥ずかしがる様子をみて楽しもうとして、無理矢理連行して来たのでしょう。
秋山さんがもがいていますが、大きな先輩が二人両側から押さえ付けているのでどうにもならないようです。座敷で見物していた他の先輩が、気がついて声をかけます。
「どうした江美子。大好きなお客様が来ているじやないか。せいぜい、お尻を振って、いい声で歌うんだよ。後で色男が可愛がってくれるかもしれないよ」
私は情なくて、本当においおい声をあげて泣いてしまいました。その様子を見て、まわりの見学の皆さんは、いっそう喜んで、
「次は校歌を歌わせよう」
などとリクエストをするのです。私達は、秋山さんが先輩達に連れ去られた後も両手と両足で鉄砲柱によじ登り、無様な猿のように股を開いてしがみつきながら、
「桃陰学園ばんざい、桃陰学園ばんざい」
と叫んだり、二人で後ろ向きに仕切ってそのまま両側から、全速力で四つん這いでバックしてきて、中央でお尻をぷつけ合う「尻つっばり」という珍妙なぷつかり稽古までやらされました。
すぺて終って、最後の掃除が済むと終業式があるのですが、私はすぐに寄宿合の荷物をまとめ一散に学校を後にしました。もうこの校門を二度とくぐる気はありませんでした。遠くから秋山さんの呼ぶ声が聞こえたような気がしましたが、決して後を振り返ったりはしませんでした。
私は平凡な女学生として、その地で大学を卒業し、日本の総合商社のアメリカ支店に現地採用されました。一年後に本社に転属されて久しぶりに東京に戻って来ましたが、その本社ピルで、まったく偶然に、ここに入社していた秋山さんと再会したのです。
ちょうど営業部の部屋の前を通りかかった時、書類を手にした背広姿の長身の人がドアから出てきて、あやうくぶつかりそうになりました。私達は一目でお互いを認め合いました。
十年近い歳月は一瞬に消え去り、二人は社の廊下に棒立ちになりました。しかし私はその時、学校の裏庭の木の下に立った秋山さんを思い出し、反射的に身をひるがえしていました。そばの階段を駆け登って逃げようとしたのです。でも、最初の踊り場で私は秋山さんに追いつかれました。
そこにはちょうど無人の給湯室があるだけです。私がそこに逃げ込むと秋山さんも入ってきて、後手にドアを閉じました。
「ま、まさか秋山さんとこんな所で…」
「まったく足が速いなあ。貴女にはいつも逃げられていましたね」
「つらいわ。私の事は忘れてください。秋山さんに昔、恥ずかしい姿を見られて軽蔑されて、本当に死ぬより辛かったのです」
「何を言うんです。僕に貴女を軽蔑したり出来るものですか。僕こそ苦労知らずのキザな、鼻持ちならない高校生だった。貴女にそう思われていたと信じていた。、それよりどれだけ貴女を捜したことか。百合子さんも僕も、とても貴女に会いたくて随分さがしましたよ」
「でも、あんな恥ずかしい事をしている女の子なんて、貴方に嫌われてもしかたがないのだと思って…私は、私は」
「とんでもない。僕は本当に貴女が好きになったのです。でもあの時の僕は軟弱で貴女を助けることも出来なかった。その事が僕はとても恥ずかしかった。何とあやまっても追いつかない程、僕は弱虫だった。一人前の顔をして芸術論語っていた自分がなさけない。許してください」
「あなたのせいではない。あの学校で先輩に逆らえない事は、私が一番よく知っています」
「最初会った時、貴女はそれまで僕が出会ったどんなお嬢さんとも違っていた。僕は一目で魅きつけられました。でも貴女の気高いまでのその美しさがどこからくるのかわからなかった。しかし相撲部に連れて行かれてあのりンチを見せられた時、初めてわかったのです。恐しくて辛い相撲部での生活が、貴女の悲しい美しさを作っていたのだと。僕が求めて魅かれていたのは、厳しい試練に堪える殉教者の美しさだったという事です」
いつしか彼の手が私の両肩に掛かっていました。私の体はわなわなと震えて、今にも崩れてしまいそうでした。
「その後、僕も運動部に入って少しは厳しい体験をしたつもりだ。その為かどうかはわからないが、かつての気障な芸術愛好少年が、今では野暮な商社マンに成ってしまったよ。しかし貴女の事は忘れたことがなかった。何年も何年も貴女の事ばかり考えてきました。さあ。あの時の約束を想い出してよ。僕とお友達になってくれると言ったでしょう」
暖かい大きな手が私の二の腕を外側からしっかり包んできます。頭の中が真っ白です。長い間私の中でどす黒くわだかまっていた、後悔と屈辱の塊が一気に溶けだし、熱い涙になって目から次々に溢れてきます。
こうして私は、今の主人とめぐり会ったのです。
10
夫はやさしく頼もしい、私には理想約な旦那さまです。得意の語学を生かして、会社でも充分腕を振るっているようです。今、お風呂から上って、二階の寝室から私の名前を呼んでいます。私は寝化粧を済まして丸裸になり、股間に真赤な木綿のお褌を締め込みます。実はこれが、新婚初夜以来の私の夜の仕度なのです。いえ、初夜以来でありませんでした。正確には結婚式の当日、私は純白のウエディングドレスの下に、もうこの褌をしていたのです。それを知っているのはもちろん旦那様と、着付けの介添えをしてくれたあの百合子さんだけです。女子相撲部の時代には死ぬ程恥ずかしく、二度と締めまいと思っていた手拭い褌でしたが、いつしかそれが懐かしくて手放せなくなっています。又且那さまも私の褌姿が大好きだと言ってくれます。あの頃はヤセッポチだった私ですが、この頃はすっかり脂が乗り、お乳もお尻も豊かになって赤い褌がよく似合うようになってきました。
前立褌はもちろん細くよじって縦に喰い込む程に締め上げます。使い込んだ木綿が下の唇を分け、陰毛を両側に卑猥にはみ出させて、本当に恥ずかしい格好になってしまいます。この姿で私は、大好きな旦那さまの待つ寝室へ上ります。
ドアを開けると旦那さまは、正面のダプルベッドにバスローブ姿で腰掛けています。私は入口に直立したまま、新入部員の時の様に大声でご挨拶致します。
「旦那さま。褌かつぎの江美子が参りました。どうぞ今夜も可愛がって下さい」
そして旦那さまのご命令どおりに、室内をゆっくり歩きまわったり、股を開いたり、お尻を突き出したりして、褌の喰い込み具合を充分に観賞していただきます。
「江美子、お前のいやらしいお尻に赤褌がよく似合うぞ。明日はその格好でスーパーマーケットに買い物に行ってみるか?」
旦那さまにこんな言葉でからかわれると、私は本当に、昼間のスーパーマーケットの売場をロに買物籠をくわえ、お使い犬のように四つん這いになって近所の奥様達に笑われながら、褌ひとつで歩きまわっているような気持ちになってきます。惨めさがジーンとこみ上げてきて、紅しょうがのように全身をほてらせたまま、何度も何度も部屋中を這いまわります。
時には夫自慢のオーディオセットから流れる、バロック音楽に合せて裸踊りをおどらされることもあります。今夜二階から聞こえてくるのは、アルビノー二のアダージョでしょうか。あの、魂が消え入る様に華麗な旋律の中で、赤褌姿の女が両手をさしあげ、お尻を振り振り踊る、ミスマッチで滑稽な様子をご想像ください。
やがて曲が終る頃、やっと近づいて来た旦那さまが、立ったままの私を抱き、ピシャピシャとお尻を平手で打ちながら熱いキッスをしてくださるのです。気持ちが高ぶってくると、私は思わず、
「ああ、且那さま。吊って。吊ってください」
とさけんでしまいます。旦那さまの手が横褌をつかみ、私の身体は吊り上げられます。立て褌がお股に喰い込み、私は旦那さまの胸の中で、硬くとがった乳首をバスローブの衿にこすりつけ、身もだえします。喜びの声がつい洩れてしまいます。背の高い且那さまは、吊り上げたままの私の身体を軽々と振りまわします。私はアッアッと小さくあえぎながら翻弄されて、立て褌のその部分をグッショリと濡らしてゆきます。私は不様で幸福な一匹の蛙です。やがてボロ布のようにベッドの上にドサリと投げ出されると、蛙は仰向けに股を広げてひっくり返ります。恥ずかしい液でシミの出た立て褌の其処を丸出しにして、私は両腿を夢中で開き続けます。旦那さまの指先が、布の濡れた部分を、下から上ヘ、下から上へとやさしくやさしく撫ぜ上げてくれます。それから私の身体を裏返しにして、ゆっくりと結び目を解いてゆくのです。
昔、私の哀れな相棒だった百合子さんが遊びに来るのです。彼女はまだ独身で、御両親の元でお家の手伝いをしているのですが、やはりあの頃の事が忘れられなくて、夜一人でピキニパンティで褌遊びを楽しんでいるそうです。だから明日は二人で、当時の恥ずかしい初っ切り相撲を、大好きな旦那さまの前で再現してみようという事になったのです。
中庭には即席ですが土俵もつくりました。百合子さんは早速、懐しい手拭いの褌を製作し、一週間前から肌にならしているそうです。私は今愛用の赤褌を締めて、大いに旦那さまを楽しませてあげるつもりです。百合子さん十八番の「珍々踊り」もきっと且那さまを喜ぱせることでしょう。
そしてお相撲の後にはいよいよ褌をはずし、百合子さんと二人四つん這いのお尻を並べて、旦那さまに濡れぐあいを比べてもらいます。いつも恥ずかしがって泣いていた百合子さんが、どんな反応をみせるのか今から楽しみです。男の人の前で恥ずかしい格好をする事が、こんなに嬉しいものだという事を早くおしえてあげたいのです。そして最後には、旦那さまから竹刀で、思いっきり痛いお仕置きを受けるのです。
江美子と百合子さんはいつまでもいつまでもスッポンポンの丸裸で、旦那さまにお仕えする幸せな相撲部の奴隷新入部員です。 ああ、でももしかして百合子さんがお相撲に勝って、そのご褒美に旦那さまに可愛がってもらい、負けた私はそばに立たされたままそれを見ていなければならなくなったなら、ああ、そんなことになったら私はどんなに悲しい事でしょう。いくら泣いても直立不動のままでは涙を拭くことさえできません。相撲部の練習所の壁際に裸のまま立たされた、あの記憶がよみがえります。久しぶりの涙はどんな味がすることでしょう。
それではこれから、褌かつぎの江美子は旦那さまが待っている、二階の寝室へ上ります。 今夜は少し待たせすぎたので、きっと何かうんと恥ずかしいお仕置きを考えていらっしゃるかもしれません。 仕切りは充分待ったなし。はっけよい、のこった、のこった。
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