夢のサーカス「人獣曲馬団」
<詩> 室井亜砂二
遠い昔のことだから
町もさだかじゃないけれど
石版砂目の夕暮れに
さびしい広場で僕はみた
旅の曲馬の大天幕
象もいない虎もいない
それはちいさなサーカスだけど
なぜかお客は満席で
しわぶき一つ聞こえない
さてお集まりの皆様よ
今夜は特別公演だ
全裸に剥かれた生娘の
まずは身体のお調べだ
股をひらいて顔あげて
ずらり並んでチンチンだ
ほら、おっぱいもまるだしだ
それ、おまんこもまるみえだ
ここで喇叭のファンファーレ
むすめ曲馬の手はじめは
輪くぐり、玉乗り、一輪車
亀甲縛りの綱渡り
ちょいとしくじりゃ団長の
鞭が身を裂く肌を灼く
うすい背中を血がはしる
白いおしりも血に染まる
打たれた娘は目に涙
四っ這いの尻を客席に
高くもちあげ晒すのだ
無様にかなしくさらすのだ
そんなお尻が五つ六つ
道化た侏儒の先導で
列んでヨチヨチぱれえどだ
血塗れおしりの行進だ
お客はいつしかおし黙り
ふかい冥土の闇の底
太鼓の連打に見上げれば
空中レビューの開幕だ
ブランコ乗りの手から手に
縛った少女が投げられて
細い裸身が宙をとぶ
嗚呼、心は紅き硝子玉
悲鳴は悲しく尾をひいて
くらい夜空に消えていく
ひと夜かぎりの興業で
一座はどこかへ去ったけど
僕は今でもさがしている
石版砂目の夕暮れと
あの日はぐれたこの僕を
遠い昔のことだけど
初出「SMセレクト」
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